令和2年2月17日書評

このカテゴリーでは、私が読んで、お勧めしたい本の紹介をしていく。「ブクログ」(https://booklog.jp/users/shinoharayujiro/users/shinoharayujiro)と合わせて読んでいただきたい。

東広島市 篠原裕次郎


 

【書評】住民がつくる地域自治組織・コミュニティ (地域と自治体第34集)

 

著者:西村茂、池田浩、小川竹二、宮入興一、鈴木誠、中田実

出版社:自治体研究社

出版年月:2011/7/15

ブクログ:https://booklog.jp/item/1/488037573X

 

概要:

住民自治の充実を図る域内分権について、住民の参加と同意を重視した各地の様々な制度づくりの成果と課題を紹介。公務員や住民代表としての現場経験に基づく論考や、現地調査による知見を収録する。

特に、合併特例法による合併特例区と、地方自治法による地域自治区及び地域協議会についての先進事例を、実際に関わった有識者がその経緯等を振り返る。

 

目次:

第Ⅰ部 基礎自治体の域内分権ー住民自治拡充の展望

第1章 基礎自治体の域内分権ー住民代表組織の審議(決定)・実働(執行)・運営)

1 コミュニティ政策から地域自治区へ

2 住民代表機関の役割・委員構成・区域 ほか

 

第Ⅱ部 地域自治組織の実際

第2章 上越市における地域協議会の実際と可能性

1 導入までの経緯等

2 地域協議会の実際 ほか

第3章 新潟市の地域自治組織ー区自治協議会と地域コミュニティ組織

1 区自治協議会は「分権型政令市の実現」の決議によって誕生した

2 区自治協議会発足への準備 ほか

第4章 宮崎市の都市内分権化と地域自治組織の新展開

1 宮崎市の旧市域内への「地域自治区」の設置と制度の特徴

2 宮崎市の地域自治組織をどう評価するかーその「成果」と「課題」 ほか

第5章 恵那市地域自治区における住民自治活動の評価と展望

1 恵那市の合併と地域自治区

2 地域自治区による住民自治活動 ほか

第6章 名古屋市「地域委員会」のモデル実施とその検証

1 「地域委員会」をめぐって

2 市長マニフェストからモデル実施案の決定、委員の選出まで ほか

 

ピックアップと一言:

・住民代表機関の選出方法は、①公選制、②公募公選制、③公募制、④団体推薦制に区分できる。公募公選制は現実的な最善策であり、首長が住民投票の結果をそのまま認めて委員を任命するならば、実質的に公選制と同じ効果があると言える。無投票は、地域協議会の代表性、正当性をそれほど損なっていないと考えられる。選挙がなくても、住民が誰でも団体推薦なしで自由に立候補できる制度自体には意味がある。

→ここでは地域自治区(町村区レベル)での住民代表性の担保について述べていますが、住民自治協議会(小学校区レベル)においても、状況によっては公募制、公選制を検討することも必要かと思います。

 

・実践が示唆しているのは、住民自治の充実は現行法や条例の下で相当程度可能ということである。市長・議会の姿勢が変われば、地域自治区制度や独自組織を活用して住民自治を拡充できるのである。自治体リーダーは、自然発生的なコミュニティの成長を待つのではなく、行政と住民の距離を縮小する仕組みを積極的に創り出すべきである。

→地域自治区ほどエリアは大きくないですが、自治体による住民自治協議会の設立支援はまさにそうですね。この流れはまだまだ続きそうです。

 

・そもそも大多数の人は住民サービス向上や利便性を要求するのであって、地域の自治を、負担が大きくとも自ら担うという人は比較的少数であろう。狭域の自治が実践されて活動を負担する人が増え、サービスや利便性も向上するという経験が重ねられることで、域内分権の制度、さらに「自治体化」への支持は高まっていくのではないだろうか。

→特にまちなかで規模の大きい住民自治協議会では、住民からの認知度も低く、活動へ参加する割合もかなり低い。地道な活動の成果を積み重ねていく必要があるということですね。

 

・地域社会に目を向けると、経済的な効率性の追求や、行き過ぎた個人主義によって、自覚的に様々な関係を作っていかなくてはならない厳しい現実がある。断ち切られた関係の中で、全てのことを外部化、つまり自ら汗をかかずすべてお金で解決しようとしていくと、間違いなく高負担社会が待ち受けている。現在、国や地方で、コミュニティに着目した取組が進んできているのは、人々のつながりや地域の相互扶助の希薄さに気付いた市民や行政が、直感的に、そうした社会になることを何とか避けようとしている証左ではないか。

→行財政のひっ迫という面と合わせて、そもそも疎遠な社会がもたらす自治への影響は無視できないですね。

 

・法律上の地域自治区制度は、特別地方公共団体ではなく、地域内分権制度としての独立性に乏しく、予算の編成権も与えられていない。また、その核心である「地域協議会」は、その構成員(委員)の選出においては、「公募公選制」を保障していない。

→これを敢えて、公募公選制としたのが、上越市でした。上越市では自治基本条例も制定しており、住民自治に力を入れている先進的な自治体です。

 

・地域社会の諸課題の解決を図るためには、たんに行政の責任に任せておくだけではすまされない。なぜなら、身近な地域問題や課題を熟知しているのは地域の住民であり、そうした問題の解決に向けて、住民が各人の自覚と責任の下に、その立場や特性を尊重しつつ、住民相互に、また行政と協力しながら取り組むことは、地域社会の維持可能性にとって、効率的であるだけではなく、必要不可決でもあるからである。

→自治体職員が地域に出る必要があるのは、仕事の成果が地域で確認できるからで、地域にこそ仕事の答えやヒントがあるから。地域としても、逆に、地域のことを自治体に知ってもらうための努力が必要であり、そうしないと地域の社会環境が良くなっていかない、ということなんですね。

 

 

感想等:

三層の自治(市の自治-区の自治(町村区)-地域コミュニティの自治(小学校区))において、住民自治協議会は「地域コミュニティの自治」に含まれますが、本書で取り上げる合併特例区と地域自治区は、主に「区の自治」単位で設定されることが多いことと、合併特例区や地域自治区の設定に行政サイドで関わった有識者による解説であることから、行政の業務で携わる職員向けの書籍になると思います。

 

勉強になったのは、地域自治区(地域協議会)は、市行政への審議・意見表明機関として、実際に地域活動を実施する地域コミュニティとの間に立ち、地域計画や予算案を作成したり、地域の意見をまとめて市に提言したりといった機能を持つことが分かりましたが、東広島市にはこれに当たる組織(システム)が存在しない、ということですね。住民自治協議会の負担が大きい理由が理解できました。

 


R020217【書評】住民がつくる地域自治組織・コミュニティ

東広島市 篠原裕次郎